ふるさと納税の限度額を自力で計算できるようになる

2022-10-29

注意書き

執筆当時の情報です。 制度はすぐ変わるので、最新情報は各自で調べてください。 また、間違いがあるかもしれませんので、気づいた方はぜひお知らせください。

ここでは住宅ローン控除や扶養控除など、計算が大変になる要素は無視しています。 計算方法を理解していれば考慮は簡単なので、該当する方は各自で調べましょう。

税に関する文句はいくらでも出てきますが、このページに書いても何の影響力も無いので省きます。 税制を自由に変えられるくらいの権力を持ってから文句を言おう!

背景

ふるさと納税は、上限の範囲内であれば2,000円の自己負担で特定の自治体へ寄付ができる制度です。 寄付する際、寄付額の20%程度の価値を持った返礼品が付いたり、支払いでポイントを付与できたりするため、極めて高い節税効果が得られます。 対象者もほぼ全国民と言えるので、要はやらないとただ損していることになる制度です。

そんな制度ですが、所得等が確定していない段階で上限額を算出する必要があります。 目安表やシミュレーターツールが用意されていますが、給与以外の所得がある場合や高所得者のケースも含めて、正確に計算できるツールは少ないです。 また、知識がないと正しいのかが判別できず、誤った上限を適用してしまう場合があります。

正確な値に近づけるためだけでなく、他の節税を考える上でも、計算方法を把握しておくことが重要だと考えられます。 そのため、ここではふるさと納税の基礎的な計算から見てゆき、可能な限り正確なふるさと納税上限値を算出してみました。

基礎用語

最低限抑えておくべき用語を掲載します。 他の用語は適宜補足します。

  • 総収入: 得たお金そのままの値です。いわゆる額面です。
  • 控除: 何かから何かを引くことです。控除は色々な種類がありますが、税金の場合は減ると嬉しいので良い意味で使われることも多いです。
  • 課税所得: 収入から色々な控除を受けた、税金の計算元となる値です。
  • 所得税額: 課税所得に所得税を掛けた値です。
  • 基準所得税額: 所得税額から一部控除(配当控除、住宅ローン控除など)をした後の値です。これを国税として国に納めます。
  • 復興特別所得税額: 基準所得税額に2.1%を掛けた値です。これも国税として国に納めます。面倒なのでまとめて所得税と言われることもあります。
  • 住民税額: 住民税全体です。これは住民税の中でも、所得割額と均等割額の合算です。“割"と付いていていも、別に税金が安くなるわけではありません。
  • 住民税所得割額: 課税所得に住民税(10%)を掛けて、細かい調整をしたものです。これをエリア(都道府県)とお住まいの自治体に納めます。

これらがゴチャゴチャになっていると、仕組みの理解が難しくなります。 国税庁 - No.1000 所得税のしくみなど、インターネットの世界では色々な図で説明されていますので、ピンとこない方は探してみましょう。

制度の概要

ふるさと納税は3つのパートから構成されています。 総務省のページふるさと納税の仕組みと手続き和光市 (細かく書いてあったので)をソースとして確認してゆきます。

(1) 所得税からの控除

(ふるさと納税額 - 2,000円) * 所得税率 が、所得税額から引かれます。

所得税率は累進課税で、およそ5.105% から 45.945% まで変わります (国税庁 - No.2260 所得税の税率)。 なぜこんなに中途半端な割合なのかは、ふるさと納税の計算で利用される所得税率を参照ください。

上限は総所得の40%です。 あまりこの制約は気にしなくて良いです。

(2) 住民税からの控除(基本分)

(ふるさと納税額 - 2,000円) * 住民税率 (10%) が、住民額から引かれます。

上限は総所得の30%です。 後述しますが、返礼品の現金化は難しいので、あまりこの制約は気にしなくて良いです。

(3) 住民税からの控除(特例分)

これがふるさと納税を節税たらしめている要因です。

(ふるさと納税額 - 2,000円) * (100% - 10% - 所得税の税率) と示されていますが、要は この特例分に収まる範囲は(ふるさと納税額 - 2,000円) が全て控除される ということです。 全額(-2,000円)が控除され、かつ寄附金額の20%近い返礼品が来るので節税(というか差益)になるわけですね。

このように爆アドを持つ制度ですが、特例分には上限があります。 住民税所得割額の20% (課税所得のおよそ2%) が上限となっています。 通常これが一番低い上限になるので、(3)を満額使い切ったところがふるさと納税の上限額となるわけです。 逆に言うと、この特例から溢れた分は通常節税にはなりません。

関連する仕様

ふるさと納税自体は、上記の通り比較的シンプルに上限額が算出できます。 では何故背景に書いたような話が出てくるのでしょうか? それは、課税所得を算出するのが困難だからです。

所得には色々あり、それぞれ特殊な控除があったり、税率が異なっていたりします。 ここではいくつか重要なポイントを抑え、後にモデルケースで計算してみます。

給与所得控除

会社から給与を貰っている場合、一定額が給与所得から控除されます。 令和から改悪されて55万円から195万円の範囲です。 大本山のサイトに表が載っているので、確認してください(国税庁 - No.1410 給与所得控除)。 なお、転勤費用など額が大きい場合に控除できる特定支出控除もありますが、ここでは考慮しません。

基礎控除

誰でも控除される……はずが、合計所得金額(後述)が2,500万円を超えると控除されなくなった制度です。 所得税に対する控除は大本山へ(国税庁 - No.1199 基礎控除)。 所得が2,400万円以下の場合は一律で48万円です。 この細かい傾斜、要る?

住民税も同様の制度で、所得が2,400万円以下の場合は一律で43万円です。

住民税の調整控除

細かい違いですが、基礎控除で見たように、所得税と住民税で控除額が異なるものがあります。 詳細は各自治体で示されていますが(参考: 三鷹市)、今回のケースでは2,500円が追加で控除されます。 これは基礎控除分なので、基礎控除が無い場合はこれもありません。

所得税の計算

所得のうち、給与や一般の雑所得などは超過累進課税の所得税率がかかります。 超過累進課税だけでもややこしいのに復興特別所得税があり、計算が面倒です。

超過累進課税分は大本山のサイトに表が載っており、課税所得に割合をかけて控除額を引けば算出できるようになっています(国税庁 - No.2260 所得税の税率)。 復興特別所得税もあり、これで計算した値に対して2.1%を掛けたものが追加されます。 住宅ローンなどがあるとさらにややこしくなりますが、ここでは省きます。

例えば課税所得が1,000万円だとすると、所得税額は1,000万円 * 0.33 - 1,536,000円 = 1,764,000円です。 ここでは住宅ローンなどを考慮しないので、所得税額=基準所得税額になります。 これに対して2.1%を掛けた値を足すので、1,764,000円 * 1.021 = 1,801,044円が支払う税金です。 なお給与所得者の課税所得が1,000万円になるには、保険料の差や各種控除で色々変わってしまいますが、額面で1400万円くらいが目安です。

ふるさと納税の計算で利用される所得税率

総務省のふるさと納税のページには ※ 令和19年中の寄附までは、所得税の税率は復興特別所得税の税率を加えた率となります。 と書かれていますが、「復興特別所得税の税率を加えた率」が正しい表現なのかは謎です。 実際は、課税所得に応じて決定された税率 * 1.021 が適用される模様です(ふるなび, ふるさと納税の仕組みと手続きなど)。

超過累進課税のせいで一律ではなく、かつ復興特別所得税は所得税額に対して2.1%を掛けるため、単純に税率に1.021を掛けても本来の所得税率とは言えないはずですが、ふるさと納税的な概念の模様です。

株、先物などを考慮した計算

申告分離課税である株、先物、FXなどへの課税は一定の税率となっています。 率はお馴染み20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、地方税5%)ですね(国税庁 - No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度)。

こちらは算出額として計上しますが、計算の複雑性にはさして影響を及ぼしません。 すなわち、所得税額に 譲渡益 * 15.315% 、住民税所得割額に 譲渡益 * 5% を加えた額で先ほど通りの計算を行えば完了です。 定率で控除も無いと楽ちんですね。

ワンストップ特例

上限としては変わりません。

件数が少なければ確定申告をしないで良い仕組みですが、確定申告をしないということはその年に払う所得税が変わりません。 ではどうやって上限を同じにするかというと、所得税分を住民税から追加で引くという天才的な仕組みを採用しています。 国民の利便性を上げつつ、国の税収減少を抑え、負担は全て地方自治体に背負ってもらうという美しい制度ですね。 自治体も反応しており、例えば中野区からは感謝の言葉が上げられています。

合計所得金額

基礎控除などの計算に利用されます。 名前の通り色々な所得を合算した金額です。 給与所得などは給与所得控除済み、株などは損益通算済みの値を利用するので、比較的素直な値になります。 なお繰越控除は効かないので、前年は関係なく今年の所得そのままです。

具体例

ようやく、おおよそ計算に必要な要素が揃いました。 ここからは具体例を使って算出してみましょう。

なお、いずれも単身で、扶養や住宅ローンなどの控除は無いものとします。

ケース1: 給与所得者のケース

600万円の給与を貰い、社会保険料を90万円支払っている場合を考えます。 それ以外の収入は無く、年末調整済みなので確定申告は必要ない、という世に溢れていそうなケースです。

まずは課税所得を求めます。 給与所得控除が収入金額×20%+440,000円なので436万円になります(総収入が660万円未満の場合はクッソ見づらい表で計算しろと書かれていますが、この式とほぼ同じです)。 社会保険料 (90万円) は非課税で給与所得控除後の値から引くため、436-90=346万円が求められます。 また、所得税用の基礎控除(48万円)も引くと、346-48=298万円が所得税用の課税所得、住民税用の計算(43万円)は346-43=303万円です。

国税庁 - No.2260 所得税の税率により20%なので、298*0.2-42.75=16.85万円が所得税額(兼基準所得税額)となります。 これに対し復興特別所得税の2.1%分を加え、17.20万円が所得税の総額です。 また、住民税所得割額は、課税所得の10%から2,500円を控除し、303*0.1-0.25=30.05万円です。

ふるさと納税の特例分は住民税所得割額*0.2なので、30.05*0.2=6.01となるように計算します。 (ふるさと納税額 - 2,000円) * (100% - 10% - 20*1.021%) = 6.01万円 となれば良いので、頑張って計算するとふるさと納税額 = 6.01/0.6958 + 0.2 = 8.84 万円 となりました。 これが、2,000円の自己負担で可能なふるさと納税の上限額です。

ケース2: 給与以外も含むケース

2,000万円の給与を貰い300万円の社会保険料を納めており、副業(雑所得)で1,500万円、株の譲渡益で1,000万円の収入がある場合を考えます。 副業や譲渡益はすでに経費分が引かれているとします。

まずは給与に対する控除を行います。 給与所得控除は上限の195万円になります。 また、社会保険料も引くと、給与所得は2000-195-300=1505万円になります。

合計所得金額は、1505+1500+1000=4005万円となり、基礎控除は2,500万円を超えるので無くなります

給与所得と雑所得は税金のカテゴリが同じなので、合算して計算します。 3,005万円なので税率は40%です。 3005 * 0.4 - 279.6 = 922.4万円、さらに復興特別所得税の2.1%分を加え、922.4*1.021=941.77万円がこれらに対する所得税です。 基礎控除がないため、住民税所得割額も同様の値から算出し、3,005 * 0.1 = 300.5万円となります。

次に、株の譲渡益を考慮します。 所得税額に 1000 * 0.15315 = 153.15万円 、住民税所得割額に 1000 * 0.05 = 50万円を加えます。 これにより、所得税額は941.77+153.15= 1094.92万円、住民税所得割額は300.5+50= 350.5万円となりました。 なお、住民税の調整控除は基礎控除に基づくものなので、このケースでは引かれません。

ふるさと納税の特例分は住民税所得割額*0.2なので、350.5*0.2= 70.1万円となるように計算します。 (ふるさと納税額 - 2,000円) * (100% - 10% - 40*1.021%) = 70.1万円 となれば良いので、頑張って計算するとふるさと納税額 = 70.1/0.4916 + 0.2 = 142.80 万円 となりました。 これが、2,000円の自己負担で可能なふるさと納税の上限額です。

ツール

ここまでの知識が正しいとすると、ふるさとチョイスのシミュレーションが一番正確な模様です。

(追記) 会計セブンさんのWebツールが非常に詳細です。こちらを利用すると良さそうです。

まとめ

ユウカ、助けてくれ

あくまでインターネットで調べた程度の知識なので、色々な間違いがあるかもしれません。 税理士さんのコメント、お待ちしております。

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